スライドセミナー「脳腫瘍」

CASE 921.22

症例 22.54歳,男性

54歳  11月 初旬 左視力,視野低下,徐々に進行した。
54歳   3月 ___ CTスキャン,MRIにてトルコ鞍内,鞍上部,第3脳室内を充満する腫瘤あり。
54歳   3月 17日 腫瘍部分摘出術を施行。
手術所見 腫瘍は視交叉直下から両側視神経の間,下垂体部に存在し,さらに中脳前縁に及んでいる。赤褐色軟,被包化され一部に嚢胞を伴っている。
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CASE 921.22 SUMMARY

1.組織学的診断:craniopharyngioma

スペース

2.診断に至る要点と注意点

  1. 54歳男性のトルコ鞍内,鞍上部,第3脳室腫瘍
  2. 被包化された腫瘤,一部に嚢胞を合併
  3. 多房性嚢胞,嚢胞の壁にはエナメル上皮様の形態を示す重層上皮
  4. 上皮細胞には異型的な所見はない
  5. 角化物,石灰沈着

3.本腫瘍の病理学的概要

  1. 頭蓋内腫瘍の5%
  2. 小児にも成人にも発生
  3. 嚢胞腔にはエンジンオイル状の液体,充実性部分に石灰沈着
  4. 重層扁平上皮が乳頭状構造や細胞集団を作って増殖
  5. 上皮の形態により2型に分類

    1) エナメル上皮型(adamantinomatous type)
    2) 扁平上皮型(squamous cell type)

  6. 巨細胞やコレステリン結晶を含む肉芽性反応

4.Comment

Craniopharyngioma頭蓋咽頭腫

 特徴 頭蓋咽頭腫craniopharyngioma はトルコ鞍部から第3脳室にかけて発生する良性腫瘍である。
頭蓋内腫瘍の5%、下垂体・視交差部腫瘍の 25 %を占め、小児にも成人にも発生する。 エナメル上皮腫型 adamantinomatous type と扁平上皮乳頭型 squamous papillary type の2型がある。
 これらは臨床的にも病理学的にも性質が異なっている。組織由来はまだ不明な点があるが、エナメル上皮腫型は上皮の形態がエナメル上皮腫に酷似しており、
迷入した歯原性上皮からの発生するとの説がある。また、扁平上皮乳頭型は下垂体柄にしばしば観察される重層扁平上皮巣(Erdheim の扁平上皮巣)からの発生が示唆されている。
この上皮細胞巣は頭蓋咽頭管の遺残組織(Rathke’s pouch)に由来するとする説と、下垂体細胞の重層扁平上皮化生によって形成されるとする説がある。

 1. エナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫 adamantinomatous craniopharyngioma 若年者に多い型で、トルコ鞍上部に境界鮮明な石灰化を伴う嚢胞性腫瘤が形成される。
腫瘍は脳底部に付着し、視床下部や第3脳室に向かって上方に進展増殖する。嚢胞腔には暗褐色の液体が含まれており、これは肉眼的に”機械油様”と表現されている。
この液体中にはきらきらと輝く微細なコレステロール結晶が含まれている。組織学的には一見重層扁平上皮様の形態を示す上皮細胞集団が線維性基質の中に増殖している。
上皮胞巣の中心から周囲に向かって上皮が舌状に伸び出し、八つ頭状あるいはクローバーの葉状構築と表現されている。 上皮細胞は胞巣の周辺部では円柱上皮様の形態を示し、
その核は一列に規則的に配列している。一方、胞巣の内部では細胞間隙が開いており、星芒状の細胞がその突起を吻合させて網目状構造(stellate reticulum)を作っている。
細胞間隙には水腫様基質が認められる。上皮胞巣内には角化物がしばしば類円形の集団となって出現している。上皮細胞と角化物の間には顆粒細胞層の出現はなく、上皮が突然角化するかの様にみえる。
角化物は類表皮嚢胞で見られるほど扁平化・重積化せず、 陰影化した上皮細胞集団の様にみえる。 この角化物は”wet keratin” と呼ばれている。
上皮胞巣内の特に角化物周囲には石灰沈着が認められる。嚢胞腔は上皮胞巣内に形成されたものと、強い水腫により間質に形成されたものがある。
間質には線維化、炎症性細胞浸潤、コレステリン裂隙などが見られることもある。腫瘍は周囲の脳実質に浸潤することがある。腫瘍に接する脳組織にはしばしば著明なグリオーシスがみられ、Rosenthal 線維が観察される。

 2. 扁平上皮乳頭型頭蓋咽頭腫 squamous papillary craniopharyngioma 主に成人に見られ、石灰沈着の乏しい充実性の腫瘤を形成する。鞍上部から第3脳室ににかけて、表面の平滑な腫瘤が発育しており、
機械油様の内容物はみられない。組織学的には、よく分化した重層扁平上皮が網目状に吻合しながら増殖している。上皮の網目の間には血管結合織からなる間質が認められる。
上皮の周辺部や間質に接する部分では上皮細胞は小さな核と狭い細胞質を持つ基底細胞からなり、そこから離れるにしたがって徐々に細胞質が広くなり、細胞間橋が出現して、有棘細胞層の形態を示してくる。
ケラトヒヤリン顆粒や角化巣はみられない。まれに、上皮内に杯細胞や有線毛細胞が見られることがあり、ラトケ裂嚢との関連性が指摘されている。
上皮の基底部の細胞が円柱上皮様の柵状配列を示さないこと、有棘細胞巣に stellate reticulum がないこと、特有な角化物がないことなどの諸点によりエナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫とは鑑別できる。

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