スライドセミナー「脳腫瘍」

CASE 921.8

症例 8.39歳,女性

38歳 10月頃より 時々頭痛あり。
4月     頭痛が増強,某院にてCTスキャンで脳腫瘍の疑い。
39歳 4月 19日 入院。神経学的に異常所見なし。CT, MRI, 脳血管撮影にて
左前頭葉脳腫瘍と診断した。
4月 26日 腫瘍摘出術を施行。
手術所見 腫瘍は白色で硬く,一部はmulticysticであった。
また,石灰化が認められた。
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CASE 921.8 SUMMARY

1.組織学的診断:oligodendroglioma

スペース

2.診断に至る要点と注意点

  1. 成人女性の前頭葉腫瘍
  2. 多房性嚢胞を伴う白色の硬い腫瘍,石灰化
  3. 標本内に腫瘍組織と脳組織片十数個,石灰沈着が著明
  4. 腫瘍細胞は小型の類円形核と淡明な細胞質を持つ
  5. 蜂巣構造 honey-combed structure
  6. 核は均一,核分裂像はほとんど見られない
  7. 間質に毛細血管網,内皮の増殖はない
  8. 壊死巣もない

3.本腫瘍の病理学的概要

  1. 成人の大脳半球特に前頭葉に好発,発育は遅い
  2. 淡桃色の比較的境界明瞭な腫瘍,軟,石灰沈着を伴う
  3. 均一な円形核と極めて淡明な細胞質,細胞膜は極めて鮮明
  4. 細胞の輪郭は類円形ないし多角形で.細胞は敷石状に密に配列
  5. 蜂の巣構造(honey-comb structure)
    棺形成(boxed-in appearance)
    目玉焼き像(fried-egg appearance)
     標本作製過程の人工産物である
  6. ときに,GFAP染色陽性の小型円形細胞 “minigemistocytes”
  7. 免疫組織化学:GFAP, S-100 蛋白, MBP, Leu 7
  8. 電顕:微小管,縞模様を持つ多角結晶構造,同心円状層板構造

4.Comment

Oligodendroglioma 乏突起膠腫

 定義 乏突起膠細胞に類似の腫瘍細胞から構成された腫瘍である。

 特徴 成人の大脳白質、特に前頭葉に好発する発育の遅い腫瘍である。肉眼的には比較的境界明瞭な淡桃色の軟らかい腫瘤を作る。
光顕的には細胞密度の高い腫瘍であり、細胞のほぼ中心にある類円形核と際立って淡明な細胞質を持つ細胞から構成されている。細胞膜は極めて鮮明で、良く保存され、細胞の輪郭がわかりやすい。
このような腫瘍細胞の特徴的所見は、蜂の巣構造(honeycombstructure)あるいは、目玉焼き像(fried egg appearance)と呼ばれている。核周囲の淡明化は固定と脱水による人工産物と言われており、迅速診断時の凍結切片では見られない。
核の形態は均一で、分裂像は少ない。核周囲の細胞質が好酸性で硝子様を示す細胞が出現することもある。この細胞は minigemistocytes と呼ばれており、GFAP 染色が陽性である。GFAP 陽性の腫瘍細胞は乏突起膠腫の数十%に観察される。
また、細胞質に微細な好酸性顆粒を充満させた類円形細胞が出現することもある。 間質には分岐と吻合を示す毛細血管が網目状に発達している。この所見は鳥小屋の金網像(chicken wire pattern)と表現されている。
石灰沈着もこの腫瘍の特徴所見の一つに挙げられる。基質に好塩基性の物質が増量し、微小嚢胞性変化(microcystic change)を示すこともある。まれに、細胞が数個ずつ小集塊を作ったり、柵状のリズミカルな配列を示して primitive polar spongioblastoma に類似の像を呈することもある。
皮質への浸潤部では腫瘍細胞が神経細胞の周囲を取り囲む像がしばしばみられる。 診断にあたっては central neurocytoma, clear cell ependymoma との鑑別が必要である。乏突起膠細胞に特異的な免疫組織化学的マーカーはない。これらの腫瘍との鑑別には電子顕微鏡的検索が有効である。

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